私は玄関から外へ飛び出し、状況を確認しました。ほんの数メートル先で、西側の屋根から、ゴーゴーと音を立てて火柱がもの凄い勢いで高く吹き上がっていました。「これは駄目だ」と観念した私は家の中に戻ったものの「逃げろ、逃げろ」と声を荒げるだけで、何をどうしたら良いのやら頭が真っ白になり、何の考えも浮かびませんでした。妻もうろたえ、必死になって次から次へと言葉をわめき立てていました。
家族全員の無事を確認、隣のおばちゃんも救出
その後、皆は思い思いに家を飛び出したようですが、詳しい様子は覚えていません。
妻が119番に通報していましたが、気が動転して、わめき立てているので、全く要領を得ていない様子でしたが、私にもそれを制する余裕はありませんでした。
私は皆がちゃんと逃げたか、特に末っ子の3歳の「寅之介」のことが心配で再び2階に駆け上がりました。すると最初に炎の光を見た窓からは熱い炎の熱気が伝わってきます。火の勢いの強さと速さを肌で実感しました。
全部の部屋を見てまわりましたが、家の中には、妻の姿しかありません。家の前の坂道を「寅之介」と大声を上げながら降りて行くと、「お父さん、トラちゃんは大丈夫」という小学校6年生の娘の声がし、娘がしっかりと寅之介を抱きかかえているのを確認しました。
次に頭をよぎったのは屋根から火を上げている隣の家の「おばちゃん」のことでした。どうしても家の中へ戻ろうとするおばあちゃんを「屋根が落ちてくる。逃げなきゃ駄目だ」と言い、何とか家から引き離し、近所に住む親戚の家に向かって走り去るのを見届け、再び、わが家の正面に戻りました。この間、私どもが火事に気付いてから、ほんの5、6分の展開によって被災者全員が無事に避難できました。まさに生死を分けた数分間でした。=つづく=
(神奈川県 男性)