日本再発見 第3回 靴のままでの暮らし

海外から日本を見てみよう
 日本を離れて長期間、海外で生活してみると、日本にいては分からない文化の違いなどに気づくことがあります。この違いを身近な例を取りながら紹介します。日本の良さ、学ぶべきことなどがあらためて見えてくると思います。
 ドイツ生活は15年目になりますが、私には一つだけどうしても慣れないことがあります。それは欧米では当然のことなのですが、靴のまま家の中に入ることです。
 わが家ではもちろん「土足禁止」にしていますが、お願いしても脱ぎたがらないお客や、修理の人、家具などを家の中に運んでくれる人は当然のように靴で上がってくるので、そのつど不快な気持ちになります。
 今でも忘れられないのは、長男を出産して数週間後の大雪のある日、夫が突然40度の高熱を出したときのこと。私は産後、とても彼を病院に連れて行ける状態ではなかったので、往診をお願いしました。
 来てくれた女医は、雪と泥のついた膝までの編み上げブーツのまま、わが家に入ろうとしました。医者が患者の家に土足で入るとは、さすがドイツでもありえないと思っていたので、私は思わず悲鳴をあげてしまいました。新生児もいるし、カーペットなので脱いでくださいと丁寧にお願いしたところ、「私は医者です!靴は脱ぎません」と反対に怒られてしまいました。


わが家では土足禁止
 郷に入れば郷に従えと思い、何も言い返せませんでした。往診後、汚れたカーペットを掃除していた私を、夫は「緊急患者を訪問しているので忙しく、靴を脱いでいる時間がないからだろう」となだめてくれましたが、それにしても衛生的に良いとは決して思えないことなので、私にとっては腑に落ちない出来事でした。
 ドイツ人である夫の実家でも、両親は靴のまま生活しています。義母はずっとヒールのついた靴だと疲れるので、家の中では履きやすい靴にしていますが、義父が靴を脱ぐのは横になるときだけ。
 でも最近では、玄関で靴を脱ぐドイツ人家庭も多いのは事実。ただお客は靴を履いたまま上がらせるのが常のようで、私もよその家をお邪魔し、靴を脱ごうとすると、たいてい「そのままでいいよ」と言われます。そう言われても脱いでしまうし、機内やホテルでもマナー違反かもしれませんが、つい靴を脱ぐとリラックスできてしまう私はやはり日本人だなあと思います。
 ドイツに来て、靴のメッセ(見本市)での通訳や矯正靴関係の翻訳を6年ほどしていましたが、日本の靴職人の方は「ドイツの矯正靴は素晴らしい。でも足のためにもっともいいのは?裸足?なのだ」とよく言っていました。
 裸足といえば、赤ちゃんは、足の裏でいろいろな感覚を確かめながら歩き方を覚えるし、足の力を鍛えると、脳への刺激もいっそう活発化されるので、できるだけ室内では裸足で過ごさせる、というのは日本的な育て方。寒い国だからか、新生児には大人より一枚多く着させ、とにかく靴下やタイツはとても大切なドイツでは考えられないことです。
 しかし、裸足でスポーツをすることが健康的だと、空手、柔道、合気道などの武道は、ドイツで大人気。アジア風インテリアの流行の影響か、息子の通う幼稚園にはなんと畳の部屋が。玄関で靴を脱ぐという日本文化の良さ、裸足の良さが、これからもっと欧米社会にも浸透してくるかもしれません。