不撓不屈

 「不撓不屈」、この言葉を耳にしたのは、平成の大横綱・貴乃花が大関昇進のとき、昇進伝達式の使者に返す口上の言葉の中にあった「不撓不屈の精神で相撲道に精進いたします」というもの。
 辞書で調べると、不撓は「どのような困難にあっても屈しないこと」。不屈は「どんな困難にぶつかっても意志を貫くこと」。同じ意味の言葉を重ね強調した言葉のようである。
 貴乃花の口上のときには、漠然と「そういう言葉もあるのか」と思ったが、最近「不撓不屈」という小説を読み、主人公の飯塚毅という人物を知った。この人物の生き様を知り、はじめて不撓不屈の意味が理解できたように思う。
 この小説は「金融腐蝕列島」「呪縛」「再生」などの経済小説を得意とする高杉良の作品である。
 この物語は実話に基づくもので、たった一人で国家に立ち向かい、7年間にわたる闘いの果てに完全勝利を収めた人物がモデル。


困難に立ち向かう強い精神力
 昭和38年、飯塚会計事務所は大企業に比べて脆弱な経営基盤しか持たない中小企業のために、「別段賞与」という制度を勧めた。これに対して国税局は脱税指導の嫌疑をかけてきたのだ。
 そのきっかけは一官僚の個人的な逆恨みであった。
 飯塚会計事務所と関与先数十社に対し一斉に税務調査が始まり、マスコミからは「脱税指導」と報道され、飯塚氏の部下4名は逮捕された。
 それでも国家は手をゆるめることはなく、顧問契約をしていた企業は次々に離脱していった。
 にわかに信じられないが、すべてが飯塚氏個人を社会から抹殺するためのものであり、その手法は恫喝に近いものであった。
 飯塚氏は窮地に立たされたのである。それでも信念を貫き、まさに不撓不屈の精神で、国家に闘いを挑んだのだ。家族をはじめ徐々に支援の輪が広がり、国会でも議論され、飯塚氏の主張は認められ、最後は完全なる勝利を手にしたのである。しかも、勝利した後、国への損害賠償を一切請求しなかった。
 この背景には師と仰ぐ老師の存在が大きい。端的に言えば、彼を支えていたのは老師を通して養われた宗教心なのである。宗教を拠り所とする精神力の強さをあらためて感じた。どんな困難にも信念を曲げず、貫くことの大切さを学んだ。
 この物語は平成18年に同名の映画となって公開された。