褒め上手

 世の中には、褒めることを積極的に活用している人々がいる。
 あるインタビュー番組で、業績を一気に伸ばした自動車販売会社の経営者が紹介された。この不況の中、職場に活力を与える秘策は、部下を徹底的に褒めることだという。


やる気を起こさせ、人を動かすパワーになる
 それに気づいたのは、会社の支店長に抜擢された時のこと。かつて有数な売り上げを誇っていたこの支店は、急激に業績が落ち込んだ。長く低迷していたために、社員は皆、自信を失っている。そこでまず、自信を持ってもらおう、自分たちがどれだけ力があるのかに気づいてもらおうと、徹底的に部下を褒めた。地道な努力に目を向け褒める。それが自信となって、精神的に元気にもなり、頑張る。その結果、支店長になってわずか2年で、売り上げナンバーワンの支店になった。
 この経営者は社長になった今も、毎日、社員に声をかけ続けている。社員と話す時、単なる情報のやり取りに終わらせず、必ずひと言褒める。「褒められるのが苦手な人も、中にはいるでしょう」というインタビュアーの問いに、「ひと言、気の利いたことをさりげなく言う。褒めるというのも、練習じゃないですか」と答えていたのが印象的だ。
 褒める教育でよく知られるのは、松下村塾を開いた吉田松陰であろう。松陰は友達のような姿勢で門人に接し、言葉遣いが大変丁寧であったという。褒めるのが極めて上手で、「あなたは人の上に立つ才能がある」とか、「あなたは人の心がよく分かるなあ」などと門人をよく褒めた。斡旋の才能がある、と松陰から言われた伊藤博文は、その通り政治の才能を活かして総理大臣になった。作為的に褒めるのではなく、善行を見ると心から感激し、それを相手にそのまま伝える、そのような褒め方だったという。そして門人のうちの何人かが明治以降も生き続け、明治政府を動かしていくことになる。
 私たちの日常でも、相手の資質ばかりでなく、服装や身に付けているものなど、どんなものでも褒めることによって、その場の雰囲気が良くなったり、会話が弾んだりするものである。褒めるという行為は、さらに、積極的に活用することによって、人にやる気を起こさせ、人を動かすパワーにもなりうる。人間同士褒めあうことによって、元気になりたい。